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福岡地方裁判所 昭和62年(ワ)2880号 判決 1989年5月17日

原告

井上雅義

右訴訟代理人弁護士

杉原弘幸

被告

博多自動車有限会社

右代表者代表取締役

吉嗣正喜

右訴訟代理人弁護士

津田聡夫

主文

一  原告が被告に対し雇傭契約上の権利を有する地位にあることを確認する。

二  被告は、原告に対し、金一〇四二万四一一一円及び昭和六二年一二月から、原告を復職させるまで、毎月一〇日限り、金二四万六五六一円宛を支払え。

三  原告のその余の請求を棄却する。

四  訴訟費用は被告の負担とする。

五  この判決は、第二項に限り、仮に執行することができる。

事実

第一当事者の求めた裁判

一  請求の趣旨

1  主文一項同旨

2  被告は、原告に対し、金一〇六七万六六二六円及び昭和六二年一二月から、原告を復職させるまで、毎月五日限り、金二五万三六一〇円宛を支払え。

3  主文四項同旨

4  仮執行宣言

二  請求の趣旨に対する答弁

1  原告の請求をいずれも棄却する。

2  訴訟費用は原告の負担とする。

第二当事者の主張

一  請求原因

1  被告は、一般旅客運送(いわゆるタクシー)を業とする会社であり、原告は、昭和三三年九月に乗務員として被告に雇傭され、博多自動車労働組合(後にはかたタクシー労働組合と改称。以下単に「組合」という。)の執行委員、副委員長、書記長を経て、同五〇年から同五九年一〇月まで組合執行委員長の地位にあったものである。

2  被告は、昭和四六年六月、手形不渡を出し、事実上倒産した。

このため、組合は、被告経営陣とともに再建対策委員会を組織して運賃収入の管理等にあたり、さらに、同五一年九月からは、組合の主導する事業管理委員会を通じて被告の経営全般を管理してきた。

3  組合は、被告代表取締役の承認の下に、昭和五三年一〇月二〇日の組合大会決議に基づき、被告の企業運営を全面的に自主管理する運営委員会を組織して、その運営を原告に一任することとした。爾後、原告は、昭和五九年一〇月に組合執行委員長の地位を退くまで、対外的には経営室長という名称を用いて、被告の実質的代表者として行動した。

その間、被告の日常業務についての意思決定は、業務担当者会議でなされていた。

4  被告は、昭和五九年一一月二六日、原告を、就業規則八四条八号、同条一二号及び八二条に該当するとして諭旨解雇(以下「本件解雇」という。)した。その理由は、

(一) 原告は、昭和五一年八月以降、被告の液化プロパンガス(以下「LPガス」という。)供給取引先である有限会社カネタ商事(以下「カネタ商事」という。)から正当な理由のない金員の供与を受け、他方、被告のガススタンド営業部門が多額の赤字を負担する状況に在るのをそのまま放置したこと

(二) 南バイパス立退補償に関連し、当然賃貸人が負担すべき建物内装費等を被告に負担させたこと

の二点とされていた。

5  しかし、右解雇理由にあたる事実はなく、本件解雇は無効である。

6  原告は、昭和五九年一一月分以降の賃金の支払を受けていないところ、原告は、賃金については、組合専従の書記長と同様に取り扱い、月額金四四万円の運賃収入があがったものとみなされ、これをもとに支払を受けていた。右により原告の受くべき給与及び一時金は次のとおりである。なお、被告における給与の支払方法は、月末締めで翌月一〇日払いである。

(一) 給与

(1) 昭和五九年一一月から同六〇年九月まで 毎月金二五万〇二一〇円

(2) 昭和六〇年一〇月から同六一年九月まで 毎月金二五万一三五〇円

(3) 昭和六一年一〇月から同六二年九月まで 毎月金二五万二四八〇円

(4) 昭和六二年一〇月 金二五万三六一〇円

計金九〇五万一八八〇円

(二) 一時金(その明細は、別紙<略>一時金明細書のとおり)

昭和五九年年末 金二八万四一九五円

同六〇年夏期 金二四万二九三四円

同六〇年年末 金二八万九三一一円

同六一年夏期 金二四万八六八六円

同六一年年末 金三一万二七三四円

同六二年夏期 金二四万六八八六円

計金一六二万四七四六円

右(一)、(二)の合計 金一〇六七万六六二六円

7  よって、原告は、被告に対し、雇傭契約上の権利を有する地位にあることの確認並びに右6の給与・一時金合計一〇六七万六六二六円及び昭和六二年一一月分以降の給与として同年一二月から原告を復職させるまで、毎月五日限り金二五万三六一〇円宛の支払を求める。

二  請求原因に対する認否

1  請求原因1、2の各事実は認める。

2  同3の事実中、昭和五三年一〇月二〇日の組合大会において、運営委員会を組織し、その運営を原告に一任することを決議したこと及び爾後原告が、経営室長という名称を用いて、被告を実質上代表する者として行動していたことはいずれも認め、その余は否認する。なお、事業管理委員会が被告経営に関する最高議決機関であったのに対し、運営委員会は、特別な企画等につき、原告に対して同意を与える機関にすぎない。

3  同4の事実は認める。

4  同5は争う。

5  同6は、(一)、(二)の給与・一時金の額を争い、その余の事実は認める。

三  抗弁

原告には、以下のとおり、被告就業規則八四条八号(「会社の名義を利用し私利を図る行為があったとき」)及び一二号(「故意又は重大な過失により・・・・会社に損害を与えたとき」)の各懲戒解雇事由に該当する行為があったので、被告は、原告を、同規則八二条に基づいて本件解雇に付したものである。

1  カネタ商事及び東洋技研産業株式会社との癒着

(一) カネタ商事との不相当取引及びリベート受領

(1) カネタ商事は、被告が事実上倒産した昭和四六年六月以後に設立されたが、LPガス販売につき、高圧ガス取締法による県知事の許可を受けていないにも拘らず、LPガスを卸売業者から購入して被告に転売していた。

(2) カネタ商事が右取引によってあげていた収益は年間約二〇〇〇万円にのぼるが、被告にとっては、LPガスを購入するのにカネタ商事を介する必要はなく、被告内部でも、カネタ商事を排して卸売業者から直接LPガスを購入すべきだとの意見が強かった。

ところが、カネタ商事は東洋技研産業株式会社(以下「東洋技研」という。)代表取締役でもある檜田正富(以下「檜田」という。)によって設立、経営されてきたものであるところ、原告は檜田と親しい関係にあり、その後援を得ていたため、檜田の意を受けて、被告内のカネタ商事を排すべきとの意見を抑え、カネタ商事と被告との取引を継続させた。このため、被告は、カネタ商事に無用のマージンを支払い続けることになり、被告のガススタンド部門は多大の赤字を背負う結果になった。

(3) また、原告は、カネタ商事と被告との右の取引関係を擁護する見返りとして、カネタ商事から多額のリベートを受け取っていた。

(二) 東洋技研に対する不当な内装費支払について

(1) 被告の本社社屋及びその敷地はもと被告の所有であったが、昭和四六年の事実上の倒産に際し、当時被告に対して債権を有していた東洋技研に譲渡され、爾後被告は東洋技研から右社屋及び敷地を賃借して使用していた。

(2) ところが、昭和五三年ころ、右敷地の一部が福岡南バイパス建設用地として買収される計画が発表になった。これが実施されると、被告としては右敷地(福岡市博多区東比恵三丁目三三番二二号。以下「現在地」ともいう。)で営業を継続することが困難になるので、被告内部には他の場所に移転して営業すべきであるとの意見もあったが、昭和五三年六月の組合臨時大会において、現在地での営業継続を前提として、東洋技研との右賃借を継続すべきことが決議され、被告としては、移転せずに営業を続ける方針を固めた。

(3) 昭和五六年に右買収が実施され、これに伴って、被告及び東洋技研は、前記社屋を一時仮に移転することを前提に補償金の支払を受けた(東洋技研は約五億円、被告は約六七八〇万円を受け取った。)。しかし、その後、東洋技研が隣接地を取得して被告に賃貸することになったので、社屋の仮移転や新築は不要となり、右補償金を他の目的に使用しうることになった。

(4) ところが、原告は、やはり檜田の意を受けて、そのころ東洋技研が行った右社屋の改装費用の一部を被告において負担することとし、被告の取得した右補償金の大部分を内装費の名目で東洋技研に支払った。しかし、右改装費用は、本来賃貸人たる東洋技研が負担すべきものであるから、原告は、右支払により、被告に理由のない支出をさせて損害を与えたものである。

(三) 東洋技研に対する不当な利息支払

東洋技研は、被告に対する手形債権(金四〇〇万円)を第三者から譲り受けたと称し、昭和四六年一二月ころより被告から月一〇万円の利息の支払を受けてきたが、原告は、被告代表者が昭和五五年末ころから倒産時の債務の整理を行っていたにも拘らず、右利息が檜田の妻の小遺いになっているとの理由で右債務の整理をさせず、昭和五九年九月ころまで利息の支払を続けさせて、被告に損害を与えた。

2  被告経営の実権の不正取得

(一) 原告は、檜田の支援と庇護のもとに被告を強制し、組合を籠絡して、昭和五三年九月以降被告の経営者を排除して被告経営の実権を取得した。すなわち、原告は、昭和五三年九月、被告社員総会決議により被告代表取締役の代表権行使について同意権を与えられ、さらに、同年一〇月に、被告の運営を一任されるに至ったが、これは、檜田が、被告代表者らに対し、原告に経営を委ねないならば前記社屋及び敷地の賃貸借を継続しないとしてこれを強要したからである。また、その賃貸借自体、原告が、福岡南バイパス建設に伴う被告の移転によって賃料等の収入を失うことをおそれた檜田の意を受けて、組合内の議論を誘導し、反対論を抑えて、昭和五三年六月の組合臨時大会で継続決議をさせたものである。

そして、原告は、昭和五四年一月から三月まで被告代表取締役の出勤を差し止め、当初六か月間、代表取締役及び専務取締役を業務担当者会議から排除した。

(二) 原告は、昭和五八年一〇月の組合執行委員長選挙でわずか二票差で当選するなど、社内における支持基盤を失っていき、同五九年一〇月の選挙では、当選の見込みがなくなったため、立候補しなかった。その間、原告は、檜田とともに、昭和五九年三月九日、被告代表取締役を顧問弁護士事務所に呼びつけ、現代表取締役のままでは東洋技研としては安心して賃貸借が継続できない、生活費は保障するのでこの際会社を完全に譲るように、さもなくば社屋の明渡を求めるなどと申し向けたが、代表取締役はこれを断った。

(三) 以上のように、原告は、会社経営に関し悉く被告代表取締役と敵対してきたものであり、被告がこのような人物を解雇しうるのは当然である。

四  抗弁に対する認否

1(一)  抗弁1(一)(1)の事実は認める。

同1(一)(2)前段の事実中、カネタ商事の収益は不知、その余は否認する。カネタ商事は、被告が事実上の倒産によって信用を失い、卸売業者から直接LPガスの供給を受けることが困難になったため設立されたものであり、被告にとってカネタ商事を介することには相応の理由がある。

後段の事実中、檜田が現在カネタ商事を経営していること及び被告のガススタンド部門が赤字であることは認め、その余は否認する。カネタ商事の設立及び当初の運営は、被告の当時の中小路副社長によるものであり、檜田は名義を貸していたにすぎない。

同1(一)(3)の事実は否認する。

(二)  同1(二)(1)及び(2)の事実は認める。

同1(二)(3)の事実中、東洋技研の取得した補償金額は不知、その余は認める。

同1(二)(4)の事実中、被告が東洋技研に対し社屋内装費として一二八〇万円を支払ったことは認め、その余は否認する。なお、右の内装費の支払は、組合大会、運営委員会、業務担当者会議において検討、決定の上なされたものであるから、その責任は原告個人に帰すべきものではない。

(三)  同1(三)の事実は否認する。被告が、檜田個人に対し、被告主張の金員を遅延損害金として支払ったものである。

2(一)  同2(一)の事実中、原告への同意権付与及び運営一任の事実並びに賃貸借継続決議の各事実は認め、その余は否認する。なお、代表取締役らは、組合員ではないから、業務担当者会議への出席権はない。

(二)  同2(二)の事実中、原告が昭和五八年一〇月の組合執行委員長選挙で二票差で当選したこと、同五九年一〇月の選挙では立候補しなかったこと及び昭和五九年三月九日に、原告が檜田とともに被告代表取締役と会談したことは認めるが、その余は否認する。

(三)  同2(三)は争う。

なお、被告が抗弁1(三)及び2において主張している解雇理由は、いずれも、本件解雇に際し原告に対して示されていない。このような解雇理由の追加・変更は、労働者の反論の機会を奪うものとして許されない。

第三証拠(略)

理由

一1  請求原因1、2の各事実は当事者間に争いがない。

2  同3の事実中、昭和五三年一〇月二〇日の組合大会において、運営委員会を組織し、その運営を原告に一任する旨の決議がされたこと及び爾後原告が、経営室長という名称を用いて、被告を実質上代表する者として行動していたことはいずれも当事者間に争いがなく、(証拠略)を総合すると、被告は、同年九月一六日、臨時社員総会において、被告会社の運営に関し、「会社の現状に即し、その再建と正常化を計るため、原告の同意が得られるならば、代表取締役吉嗣正喜の代表権は全てこれを原告の同意の下に行使する」との議案を全会一致で承認したこと、被告の右社員総会の承認を受けて、右当事者間に争いのない同年一〇月二〇日の組合決議はなされたものであること、右決議の趣旨は、被告の経営全般を原告に一任するとともに、協議機関として運営委員会を置くとの趣旨であったこと、被告代表取締役吉嗣正喜も原告に被告の経営全般を一任することを承認していたこと及び日常業務については業務担当者会議で協議していたことが認められる。

二  そこで、被告の主張する本件解雇理由につき判断する。

1  カネタ商事との不相当取引及びリベート受領の主張について

(一)  抗弁1(一)(1)の事実と、同(2)のうち、檜田が現在カネタ商事を経営していること及び被告のガススタンド部門が赤字である事実は当事者間に争いがないところ、(証拠略)中には、右(2)のその余の主張事実に沿うような記載部分があるが、(証拠略)によれば、被告は、昭和四六年の事実上の倒産により信用を失い、LPガスを直接卸売業者から入手することが困難になったため、その供給を確保するため、東洋技研の出資を得てカネタ商事を設立したこと、カネタ商事の実際の経営は当初被告副社長中小路一二があたっていたが、昭和五〇年に同人が急死したため、以後、檜田が経営にあたっていることが、さらに、(証拠略)によれば、昭和五六年のガススタンド新築に伴い、東洋技研が被告に対し賃料増額を求めてきたため、これに応じる代わりに、LPガスについてのマージンをもってあてることで合意したことが、それぞれ認められ、以上の事実に照らせば、(証拠略)の右記載はただちに採用できない。そして、他に、抗弁1(一)(2)の事実中、前認定以外の事実を認めるに足りる的確な証拠はない。

(二)  同1(一)(3)の事実については、(証拠略)並びに(人証略)及び被告代表者尋問の結果中には被告主張に沿う部分があるが、いずれもあいまいな伝聞や憶測に過ぎないもので採用し難く、他にこれを認めるに足りる証拠はない。

2  東洋技研に対する不当な内装費支払の主張について

(一)  抗弁1(二)(1)及び(2)の各事実並びに同(3)中東洋技研の取得した補償金額を除く部分は当事者間に争いがなく、(証拠略)によれば、右補償金額は四億九六五〇万円であったことが認められる。

(二)  同1(二)(4)の事実中、被告社屋改装費用一二八〇万円を被告が負担することとし、これを東洋技研に支払ったことは当事者間に争いがないが、(証拠略)によれば、右改装は被告会社の執務環境の整備のためのものであったことが認められ、さすれば、その費用はいわゆる修繕費とはいえず、右費用を当然賃貸人たる東洋技研が負担すべきであると解することはできない。被告の主張は、福岡南バイパス建設に関し、東洋技研が、右社屋の移転・新築を前提に相当額の補償金を受けていたところ、移転・新築が不要となったのであるから、これにかわる右改装については東洋技研において負担すべきであるというものとも解しうるが、右の事実からただちに法的に東洋技研に右費用の負担義務があるということはできず、被告が東洋技研に対し右改装費を負担する旨合意したからといって、必ずしも不当であるということはできないから、これをもって前記就業規則八四条一二号の「故意又は重大な過失によって・・会社に損害を与えたとき」に該当するものとはいえない。

3  東洋技研に対する不当な利息支払の主張について

(証拠略)によれば、被告がその主張のとおり東洋技研に対して利息ないし遅延損害金の支払をしていたこと及び右利息ないし遅延損害金につき、福岡地方裁判所昭和六〇年(ワ)第四四二号不当利得返還請求事件において、被告からの過払の主張が認められ、東洋技研に対し、金一〇二六万〇四七三円及びこれに対する昭和六〇年三月一日から支払済みまで年六分の割合による遅延損害金を支払うことを命じる判決があったことが認められる。しかし、右判決によれば、元本債権の存在自体については争いがなく、また、利息ないし遅延損害金の支払の始まったのは昭和四七年一月であるところ、前認定のとおり、原告が組合執行委員長になったのは昭和五〇年であり、被告運営の一任を受けたのは同五三年であって、以上の事実に照らせば、原告が右の支払を従前どおり継続したからといって、ただちに、これによる被告の損害について、原告に対して責任を負わせるのは相当でない。この点について被告は、昭和五五年末ころから被告代表取締役が倒産時の債務整理をしていたにも拘らず、原告が右債務について整理を妨害したと主張するが、右事実を認めるに足りる証拠はない。

4  被告経営の実権の不正取得の主張について

(一)  当事者間に争いのない事実並びに(証拠略)及び被告代表者尋問の結果によれば、原告は、被告の事実上の倒産ののちである昭和五〇年ころから被告の財務を担当していたこと、その頃組合から、再建対策委員会を解消して、経営を被告代表取締役吉嗣正喜ら経営者に委ねたい旨の提案がなされたが、右吉嗣は態勢が整わないことを理由にこれを断ったこと、東洋技研は、被告に対し、同五三年八月、「満足できる新たな賃貸借契約締結のための条件」を提示しないときは直ちに右社屋及び敷地の明渡を求める旨の催告をしたが、右条件とは、経営能力のある者への経営権の委任を含む被告社内体制の整備であったこと(なお、<人証拠>及び被告代表者尋問の結果中には、檜田が専ら原告への経営一任を求めていた旨の部分があるが、<人証略>に照らし、採用できない。)、被告は、右に対応する措置として、同年九月の被告社員総会において被告代表取締役の代表権行使につき原告の同意を要するものとする旨の決議をしたこと、これを受けて同年一〇月の組合大会決議によって、原告が被告の運営を一任され、これについては被告代表取締役も承諾していたこと、以上の各事実が認められる。

もとより、労働組合が使用者たる企業の経営を掌握し、あるいは掌握しようとすることは本来の労働組合の活動に必ずしも沿うものであるということはできないが、右認定事実及び前記一2の認定事実によれば、原告は、被告の経営者らの要請ないし承諾と組合の決議に基づき、被告の経営に当っていたのであって、被告が、これをもって懲戒事由とすることができないのは当然である。結局、被告の言わんとするところは、原告が被告の経営につき右のような重大な権限を取得するに際し、私利を図る等の不当な目的を有し、あるいは不当、不正な手段を用いたとして、これが被告就業規則八四条八号(「会社の名義を利用し私利を図る行為があったとき」)または一二号(故意又は重大な過失により・・・・会社に損害を与えたとき」)に該当するという点にあるものとみるほかはないところ、本件においてそのような事実を認めるに足りる的確な証拠はない。

なお、昭和五九年三月九日、当時の組合顧問弁護士事務所において、原告、被告代表取締役及び檜田らが会談したことは当事者間に争いがないが、その際、原告ないし檜田らが被告代表取締役に対し会社を譲るよう強要したとの事実については、これを認めるに足りる証拠がない。被告代表者尋間の結果中には被告の主張に沿う部分があるが、(証拠略)に照らし、にわかに信用できない。

5  以上の認定によれば、本件解雇はその理由を欠き、無効であるというほかはないから、当事者間の雇傭関係はいまだ終了していないものというべきである。

三  賃金について

1  請求原因6のうち、原告が昭和五九年一一月以降の賃金の支払を受けていないこと、原告が、本件解雇前、その賃金については、組合専従の書記長と同様に取り扱い、月額金四四万円の運賃収入があったものとみなされ、これをもとに支払を受けていたこと、被告における給与の支払方法は、月末締めで翌月一〇日払いであること、以上の事実は、当事者間に争いがなく、この事実に(証拠略)を総合すると、同6(一)の事実は、別紙計算書の限度で認められ、その余はこれを認めるに足りる証拠がない。

2  同6(二)の事実は、(証拠略)によって認められる。

四  以上によれば、原告の請求は、昭和五九年一一月分から同六二年一〇月分までの賃金及び右期間中の一時金合計金一〇四二万四一一一円及び同六二年一一月分以降原告の復職までの賃金月額金二四万六五六一円宛の支払を求める限度で理由があるから認容することとし、その余は失当として棄却し、訴訟費用の負担につき民訴法八九条、九二条但書を、仮執行宣言につき同法一九六条を、それぞれ適用して、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 堂菌守正 裁判官倉吉敬、裁判官久保田浩史は、いずれも転補のため、署名押印できない。裁判長裁判官 堂菌守正)

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